ダルエスサラーム便り


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Kusikia si kuona No.20

相澤俊昭


 

相澤 俊昭(あいざわ としあき)




それは一瞬の出来事だった-チーターのハンティング



 それは一瞬の出来事でした。ドライバーが『あっ!』と声をあげると同時に、彼が指差す方向を見ると、すごい速さで、一つの黒い影が動いているのが見えました。その先には何かから逃げ惑い、狂ったように走りまわる一匹のガゼル。そして、黒い影がガゼルに追いついたと同時に、土埃が舞い上がる。あまりに突然の出来事で、何が起きたのか理解できず、呆気に取られてしまったというのが正直な感想でした。


<ガゼルを狩った直後のチーター>

 12月、タンザニアのセレンゲティ平原は小雨期を迎え、辺り一面が青々とした、美しい草原になります。個人的には、乾季のカラカラに乾燥した殺風景な景色よりも、緑の絨毯が敷かれたような平原になる、この時期が好きです。ケニアのマサイマラとタンザニアのセレンゲティを、一年かけて移動しているヌーとシマウマの大群は、この辺りに生える栄養豊富な草を、これから生まれてくる赤ちゃんに食べさせようと長い旅を経て、ここまで辿り着きます。このマイグレーションと呼ばれる草食動物の大群の移動は、タンザニアの観光の目玉でもあります。実際、たくさんの観光客が、世界中からマイグレーションを見るためにセレンゲティへとやって来ます。


<鋭い眼つきで辺りを警戒する>

 この出来事も、マイグレーションを見たくて日本からやって来た観光客をガイドしている最中での出来事でした。広い草原に列を成して移動する、マイグレーションを横目にサファリカーで移動中のことでした。すぐさま、土埃の上がった方向へ車を走らせると、一匹のチーターが大きく体を揺らして、いま仕留めたばかりの獲物の傍に座っていました。ガゼルはピクリともしないので、既に息絶えているようでした。ここでようやく、さっき起きた出来事が理解出来たのです。なんと、それはチーターのハンティングだったのでした。サファリカーからの距離は約30m。周りには私たちのサファリカーだけ。カメラ越しに覗くと『ゼーッ、ゼーッ』という、その荒い息使いは、こちらにまで聞こえてきそうでした。


<平原を駆け抜けるヌーの大群>

 実は、これまで何度もサファリに来たことがあるけど、実際に肉食動物のハンティングを見たのは、これが初めてでした。生で見る弱肉強食の世界は、強烈な印象でした。食物連鎖のピラミッド型の頂点にいる強者が、下の弱者を食べて、生き延びる。まさにその意味を体感させる出来事でした。先ほどまで、チーターのハンティング・シーンをカメラの収めようと、興奮気味にシャッターを切っていたお客さんも、今では静かにその様子を見守っています。興奮から冷め、落ち着きを取り戻したのでしょう。


<平原を駆け抜けるヌーの大群2>

 一方、チーターは獲物を仕留めても、一向に食べる気配がありません。時折、周りの草原を見渡すばかりで、その視線は鋭く、何かを警戒している様子でした。チーターは仕留めた獲物のほとんどをライオンやハイエナに奪われるので、彼らを嫌います。だから、しきりに辺りを見渡しながら、警戒しているのです。いや、もしかすると私たちを気にしているのかもしれない。そんなことを考えていると、ドライバーが『食事の邪魔になるから、この場から離れよう』と言いました。もう少し、見ていたい気もしましたが、ドライバーの言葉に従い、私たちはその場から離れることにしました。貴重な体験をした、サファリでした。

 



(2015年3月20日)





*;『Kusikia si kuona』とは日本語で百聞は一見にしかずという意味です。タンザニアで私が実際に見て、感じたことをこのページで紹介していきたいと思います。  

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