先日、日本からのユニセフのメンバーの方々とタンザニアでのユニセフ支援のプロジェクトを視察するツアーに同行した。経済的理由などで、学校をドロップアウトした子どもへ教育の機会を確保するプロジェクト、母親となる女性たちへの医療サービスと出産や子育てについての知識を高めるプロジェクトというサポートの様子を視察した。子どもたちと面と向かって接したことで、さまざまな問題を抱えていることに大きな衝撃を受けた。
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現在、ダルエスサラームの多くの小学校で、COBETという特別クラスが設けてられている。ここでは両親が亡くなったなど家庭内の経済的困難、ストリートで生活するようになったなどの理由で、小学校入学年齢に学校へ行けなかった、途中で行かなくなった18歳までの子どもが学んでいる。タンザニアは、公立の小学校は授業料が無料だが、制服や学用品は購入する必要がある。通常のクラスでは教科書は3,4人で一冊を使っているが、COBETのクラスの子どもは教科書が1人1冊配られる。COBETクラスの子どもは私服で通っているが、学校によっては通常の子どもたちとCOBETクラスの子どもとの壁を作らないためにも制服を支給している。
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実際に訪問したイララ地区のヘキマ小学校では、COBETクラスが2クラスあった。1クラス15人ほどの子どもが授業を受けていた。ここの子どもたちは皆私服であった。毎日全員が揃うことはなく、家庭内の仕事や現金収入を得る仕事をしてから遅れてくる子ども、早退する子どもがいた。仕事は主に近所にある売店スタンドの商品の運び入れるというものがほとんどで、年齢を訊ねると15歳前後が一番多かった。また、将来の夢を聞くと、総理大臣や教師、パイロットなど、頼もしく元気な答えが返ってきた。ここにいる子どもたち全員に共通していることは、勉強をしたくてここに通っていることである。
COBETクラスは、本来小学校に行くことができなかった若者の中でも、若くして子どもを産んだ少女が、子ども連れで学ぶことを許可している。しかし、実際に女の子はヘキマ小学校では2クラスの内1人だけであった。聞くところによると、女の子は家事や早期の結婚・出産をし、それで手いっぱいで学校に来るのが難しいそうである。
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このCOBETクラスは小学校だけではなく、レマンドホームと呼ばれる、過ちを犯した子どもが処分の判決を待つ、日本語でいうと鑑別所のような施設にも設けられている。小学校とは異なる点は、雑貨などを作って販売するといった職業訓練も含まれている点である。ここに収容されている子どもは、主に窃盗、麻薬などの罪を犯した子どもたちである。家庭内で何らかの問題を抱え、路上で生活していた子どもの犯罪は少なくないようだ。
彼らが歓迎の意味を込めて、ラップにのせて私たちに歌ってくれた歌は、「自分たちを軽蔑した目で見ないでほしい、もう悪いことはしないから」という、反省の意をこめたものであった。それでも、総勢50人近くの子どもと食事をしながら会話をすると、好きなサッカー選手の話題で盛り上がったり、ユニセフのメンバーの方からサッカーボールが寄贈されるととても喜んだり、折り紙を折ってあげると自分も夢中で折り始めたりと、明るくて屈託のない笑顔は、小学校で出会った子どもたちと同様であった。
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母親側をサポートするプロジェクトとして、キバハ州ムランディジ地区にあるメディカルセンターを訪問した。毎日100人もの妊婦や出産後の女性が入れ替わり訪れ、待合室は常に満員である。ここでは、妊婦検診、新生児の予防接種・体重測定等の定期健診が行われている。母子手帳のようなものに記録をつけたり、予防接種をする前にその意味や方法を母親に説明したり、子育てに関する母親の講習会のようなものである。センター内の壁には、子どものちょっとした病気への対処方法や薬の処方、年齢ごとの平均体重、栄養摂取の喚起といったインストラクションのポスターが張り出されていた。
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センターの外では同時に、地域の若者がボランティアで各家庭を回り、子育てや家庭内の問題の相談にのるという活動も行われていた。30人近くのボランティアスタッフと意見交換をした際に、なぜこの活動をしようと思ったのかという質問を投げかけてみると、同じコミュニティーの中で互いに助け合うのは当たり前のことという答えが返ってきた。社会のためにできる人ができることをすること、情報を共有し問題は皆で解決すること、もともとあるタンザニアの相互扶助の精神をうまくシステム化しているプロジェクトであると感じた。
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今回の小学校やレマンドホームの子どもを訪問して痛感したことは、何も罪のない子どもたちが育ってきた環境によって困難を強いられることは、とても悲しいということである。この困難を少しでも減らす方法の一つとして、子どもに対する支援に加え、メディカルセンターのプロジェクトのような「親側へのサポート」をすることは、今後子どもたちの生活環境をよりよくすることにつながっていくのではないかと期待を抱いた。
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(2006年11月15日)
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